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法律コラム

こんにちは。世田谷用賀用賀法律事務所 代表弁護士の水谷です。
世の中で話題になっているニュースについて、法律に関わる部分で解説したいと思います。
昨年末、水戸市に住むネイリストのKさんを殺害したとして、元交際相手の会社員が殺人容疑で茨城県警に逮捕された事件がありました。
被害者Kさんの関係先に、位置情報がわかる装置(GPS)が仕込まれたぬいぐるみの贈り物が届いていたことが、捜査関係者への取材でわかったといいます。(朝日新聞の報道記事より)
相手方に無断でGPSを設置することの違法性は、法律上どのように評価されているのでしょうか。
弁護士の見解をお伝えしたいと思います。
相手方に無断でGPSを設置することの違法性
ストーカー規制法上、以前は「見張り」に該当するかで判断が分かれていましたが、令和3年の法改正により、承諾のないGPSによる位置情報取得等は明確に規制対象となりました。
また、配偶者暴力防止法(DV防止法)においても、位置情報の無承諾取得を禁止する命令等の対象として具体的に規定されています。
ストーカー規制法:
- 第2条第3項(位置情報無承諾取得等の定義): 特定の者に対する好意の感情や怨恨の感情を充足する目的で、相手方やその密接関係者に対し、以下の行為をすること。
1. その承諾を得ないで、その所持する位置情報記録・送信装置(GPS機器等)により記録・送信される位置情報を取得すること(第1号)。
2. その承諾を得ないで、その所持する物に位置情報記録・送信装置を取り付けること、同装置を取り付けた物を交付すること等(第2号)。
- 第2条第4項(ストーカー行為の定義): 同一の者に対し、位置情報無承諾取得等を「反復して」すること。
- 第3条(禁止規定): 何人も、位置情報無承諾取得等をして、その相手方に身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせてはならない。
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法):
- 第10条第2項第9号・第10号(接近禁止命令等の対象行為): 裁判所は、被害者の申立てにより、加害者に対し以下の行為を禁止することを命じることができる。
- 第9号:被害者の承諾を得ないで、その所持する位置情報記録・送信装置により記録・送信される位置情報を政令で定める方法により取得すること。
- 第10号:被害者の承諾を得ないで、その所持する物に位置情報記録・送信装置を取り付けること、同装置を取り付けた物を交付することその他その移動に伴い同装置を移動し得る状態にすること。
裁判例における評価はどうなっているのか
民事上、GPS設置の違法性について判断した裁判例はありません。
刑事上のGPS捜査について、その性質を以下のように定義し、強制の処分に当たると判示しました。
- プライバシーの侵害:
GPS捜査は公道上だけでなく、個人のプライバシーが強く保護されるべき私的空間も含め、個人の行動を継続的・網羅的に把握することを必然的に伴う手法である。
- 私的領域への侵入:
機器を個人の所持品に秘かに装着して位置情報を取得する行為は、公道上の所在を肉眼で把握する手法とは異なり、公権力による「私的領域への侵入」を伴うものである。
- 結論:
個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものであるため、刑事訴訟法上の特別な根拠規定がなければ許容されない「強制の処分」に該当し、令状なしで行うことはできないと結論付けられました。
刑事事件の最高裁判決(平成29年)の考え方は、民事上の判断にも影響を与え得ます。
GPSは「個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴う」性質があり、私的空間も含めた所在を逐一把握することは「私的領域への侵入」を伴うプライバシー侵害と指摘されています。
そのため、監視目的で密かに設置する行為は違法性が認められやすい傾向にあります。
配偶者によるGPSの設置は、違法性があるのか
このように、探偵でない者が私的にGPSを設置して居場所を追及する行為は、対象者の同意がある場合や、生命・身体への危険が切迫しているなどの特段の事情がない限り、「受忍限度を超えたプライバシー侵害」として民事上の不法行為責任を問われるリスクが非常に高いと言えます。
刑事事件の最高裁判決(平成29年3月15日)でも示された通り、GPSによる継続的・網羅的な把握は個人のプライバシーを侵害し得る手法であり、承諾なく秘かに装着する行為は「私的領域への侵入」を伴うものと評価されます。
配偶者間であっても、社会通念上の受忍限度を超えて私生活の平穏を害する態様で行われれば、慰謝料等の損害賠償責任を負うリスクがあります。
そのため、配偶者暴力防止法(DV防止法)においても、被害者の承諾を得ない位置情報の取得や装置の取り付けは、保護命令(接近禁止命令等)の対象となる禁止行為として具体的に規定されたのです。
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