COLUMUN
法律コラム

代表弁護士の水谷です。
世の中で注目されている時事問題について、法律に関わる部分で解説したいと思います。
今年の7月8日、最高裁判所で宮崎テレビの元代表取締役の退職慰労金を「3億7720万円→約90%減額で5700万円」とした取締役会決議について、裁量権の逸脱、濫用はないとした最高裁判例が出されました。
1・2審は元代表取締役の全面勝訴。
最高裁はこれを覆して、元代表取締役の請求を全面棄却したものです。
取締役会は、理由なく退職慰労金を減額したものではなく、退職金支給規程に「在任中特に重大な損害を与えたもの」に対し、基準額を減額することができる旨の定めがあることに基づいて、減額を行ったものでした。
この取締役会の判断を是認したのが、最高裁判例です。
平成30年から始まったこの裁判は、実に足掛け7年近くもかかりました。
どういった内容だったのでしょうか。振り返ってみましょう。
最高裁が会社側を「全面勝訴」させた理由とは
この代表取締役は、大きくメディア報道もされた宿泊費、渡航費の使い込みのほかに、「CSR(企業の社会的責任)」として、「文化芸術活動」なるものに多額の投資をしていました。
取締役会側は、「黒」の使い込み行為のほかに、「グレー」である後者のその損害が2億円以上に及んでいたことを、減額の理由にしていたものです。
そのため、1,2審は、「グレー」な支出によっては “特に重大な損害”を与えたとは評価できないから、それなのに取締役会が減額の決議を行ったのは、その内容においても金額においても裁量の逸脱・乱用にあたるとして、元代表取締役側を勝たせていました(「減額規定は特に重大な損害を与えた在任中の行為によって生じた損害相当額のみを減額し得る旨を定めたもの」であるから、特に重大な損害を与えたとはいえない場合にまで減額するのは裁量の範囲外)。
これを最高裁判所は、「取締役会は、取締役の職務の執行を監督する見地から、当該退任取締役が上告人会社に特に重大な損害を与えたという評価の基礎となった行為の内容や性質、当該行為によって上告人会社が受けた影響、当該退任取締役の上告人会社における地位等の事情を総合考慮して、上記の点についての判断をすべき」であるとして、減額の有無と幅について取締役会に広い裁量を与え、「取締役会の決議に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があるということができるのは、この判断が株主総会の委任の趣旨に照らして不合理である場合に限られると解するのが相当である」として、退職慰労金の大幅減額を認め、会社側を全面的に勝訴させたのです。
役員が退職金(退職慰労金)を支給するには
役員退職慰労金を支給するには、株主総会で、出席した株主の議決権の過半数の賛成を得ることが必要です。
①個々の株主総会で役員退職慰労金の具体的支給額について決定する方法もあれば、
②「役員退職慰労金規程」を作成し、株主総会で「支給の詳細は取締役会に一任する」決議を行う方法もあります。
宮崎テレビの場合は、後者の場合にあたります。
この場合において、個々の取締役の業務執行の監督責任をもつ取締役会に、広い裁量を認めたのが今回の最高裁判例です。
中小企業における「退職金支給」とは
中小企業においては、意外にもこの退職金支給規程の整備が十分でないことがあります。
これは、実際には株主総会で決議すれば退職金支給ができてしまうから(前述)、オーナー一家が株式のほとんどを所有しているときには問題とならないことも一因しています。
しかしながら、会社を第三者へ承継する場面などでは、そういうわけにはいきません。
退任する役員が、世代交代にあたり、当然に一定額を貰えることを期待していたけれども、それまでに退職金支給規程がなかったことからその支給と額をめぐって争いが生じることがあります。
また、退職金支給規程が整備されず、かつ、株主総会での決議も欠いた状態で多額の退職金を支給することは、税務的観点でも問題となることもあります。
中小企業においても、退職金支給規程は整備しておくことを忘れないようにしましょう。
また、内部統制の観点では、冒頭の事案のように、万が一不祥事のあった役員については、減額余地を持たせる規定を盛り込むことを検討すべきかと思います。
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