COLUMUN
法律コラム

代表弁護士の水谷です。
「弁護士と読む時事ニュース、ホントのところ」というテーマで、世の中で注目されている時事問題について、法律に関わる部分の解説をしたいと思います。
2025年6月16日、新型コロナ感染症流行時の「持続化給付金」と「家賃支援給付金」について。
風俗営業の中でも「無店舗型の性風俗業」が対象外とされたことについて、最高裁判所は、「法の下の平等を定めた憲法には違反しない」として、事業者側の訴えを退けました。(ニュース記事はこちら)
原告(上告人)となっていたのは事業者で、その相手方(被上告人)となっていたのは、国そのものではなく、国から給付金事務を受託していた、デロイト トーマツ ファイナンシャル アドバイザリー合同会社、株式会社 リクルートでした。
そもそも、風俗営業(風営法2条1項)を行う事業者一般が、本件各給付金の給付対象でなかったわけではありません。
風営法のもとで許可を得て営業している風俗営業そのものは、支給対象でした。
どうして事業者側の訴えを退けたのでしょうか。
持続化給付金と性産業について
持続化給付金規程と家賃支援給付金規程は、いずれも、無店舗型性風俗業(風営法2条5項の「特殊営業」)を行う事業者に対しては、本件各給付金を給付しない旨の定めを置いて(持続化給付金規程8条1項3号、家賃支援給付金規程9条1項3号)、給付を排除したことが問題となりました。
「無店舗型の性風俗業」とは、「人の住居又は人の宿泊の用に供する施設において、異性の客の性的好奇心に応じてその客に接触する役務を提供する営業で、当該役務を行う者を、その客の依頼を受けて派遣することにより営むもの」(風営法2条7項1号)のこと。つまり、いわゆる「デリバリーヘルス(デリヘル)」といわれる業種のことです。
そして今回の判決、判決を下した最高裁判所第1小法廷の5人の裁判官のうちの裁判長である宮川美津子裁判官(弁護士出身)が、“裁判長”であるのにもかかわらず、自ら反対意見を表明していることが注目です。
なぜ「法の下の平等に反しない」とされたのか
判決全文は、最高裁判所のウェブサイトで見ることができます。
「法の下の平等」を定める憲法14条1項は、およそ、あらゆる取り扱いの違いを一律に排除するものではなく、「事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り」において、法的な差別的取扱いを禁止するものであるとされています。
逆に言えば、合理的根拠があれば、取り扱いの違いも例外的に許されることがありうることになります。
判決で書かれていたこと
今回の判決がなんと書いたかを見てみましょう。
「本件特殊営業は(中略)事業者が、その派遣する接客従業者をして、不特定の者の性的欲望を満足させるために身体的な接触を伴う役務を提供させ、その対価を受ける点に特徴がある。
そして、本件特殊営業については、風営法において種々の規制がされているところ(中略)これは、本件特殊営業が上記の特徴を有することに鑑み、このような規制をしなければ、善良の風俗や清浄な風俗環境を保持し、少年の健全な育成に障害を及ぼす行為を防止することができないと考えられたからにほかならない(中略)、
風営法が本件特殊営業を届出制の対象としているのは(中略)その健全化を観念することができず、風俗営業(中略)に対するものと同様の許可制をとること、すなわち、一定の水準を要求して健全化を図ることを前提とした規律の下に置くことは適当でないと考えられたことによるものと解される(中略)
以上のとおり、本件特殊営業は、現行法上、上記のような規制をしなければ善良の風俗や清浄な風俗環境が害されるなどのおそれがあって、その健全化を観念し得ないものとして位置付けられているところ、本件特殊営業が上記の特徴を有することからすると、このような位置付けが合理性を欠くものであるとはいえない」
なんとも、煙にまかれたような気持ちになります。
判決に対する弁護士解説
よくよく読んでみると、無店舗型営業については、
①風営法上違う規制がされているから
②規制をしても健全化を観念できないものであるから
ということになります。
①はそれ自体違う規制の手法の話なので、理由付けにななりませんから、核心は②健全化しない業態だから、と言ったも同然であることがわかります。
逆に、風俗業でも無店舗型でないそのほかの業態については、規制をすれば健全化するんだ、ということでもあるわけですから、ますますよくわかりません。
宮川美津子裁判官の反対意見
この点、宮川裁判官の反対意見の概要は次の通りです。
①風営法上、無店舗型でもそうでないものも、規制をしなければ善良の風俗や清浄な風俗環境が害されるなどのおそれがあるものとして位置付けられている点に違いはないから、“特殊営業がその健全化を観念し得ないものと位置付けられている”と考えることは相当でない。
②規制の手法の違いはあれ、風営法の規制の下で適法に営業を行っている事業者を、本件各給付金の給付の場面で区別することは、本件各給付金の趣旨及び目的と整合しないというほかない。
多数意見をさらっと読むと「???」となるところが、反対事件では、論理的理由付けを持って、躊躇ない言葉遣いで書かれています。
多数意見(判決理由)の①に対する反論が②、②に対する反論が①になっていることになります。
多数意見(判決理由)、反対意見のどちらが正しいということはさておき、差別や偏見を助長するからといった精神面のみに依拠することによらず、論理面で(自ら)論破しているところは、この反対意見の意味を重くしているように思います。
この判決を聞いて思うこと
書いている私が、ちょうど「貧困女子の世界」(中村淳彦著/宝島SUGOI文庫)を読んだところでもありました。
性産業に従事する女性には、その背景に貧困が結びついており、コロナ禍で本来一番打撃を受け、かつ貧困に苦しむ層が助成を受けられなかったことに対する問題意識も示されていました。
そのこともあり、今回のニュースは注目してみていました。
ちなみに宮川裁判官は、現在65歳、東大出身で現在の西村あさひ法律事務所からTMI総合法律事務所、ハーバードロースクールを出て2019年に知財功労省を受賞(知的財産権分野)、2023年から最高裁判事となられた方であるそうです。
日常の事件処理で憲法を扱うことはけして多くないですが、元弁護士の関与した判決を読み解くと、改めて、法律と論理によって弁護することの重みを感じる今日この頃です。
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