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法律コラム

こんにちは。代表弁護士の水谷です。
2025年10月、退職代行サービス大手である モームリ を運営する企業が、弁護士資格を有しないにもかかわらず、依頼者を弁護士に紹介し、報酬を得た疑いで、警視庁の家宅捜索を受けたという報道が出ました。
この捜査を受けて、東京弁護士会は改めて「退職代行サービスを検討する際には、退職そのものに加えて、退職に関連して発生し得る法律的な問題(残業代、退職金、有給休暇、パワハラ慰謝料など)にも注意を向ける必要がある」と注意喚起を出しています。(東京弁護士会HPの注意喚起がこちら)
「使者」か「代理交渉」か、わかりにくい境界線を、専門家としての見解をお伝えしたいと思います。
「退職代行サービス」とは
近年、「退職代行サービス」が広く知られるようになってきました。
例えば、入社直後に「もう辞めたい」と考える方が、業者に依頼して会社への意思表明を代行してもらうケースが報じられています。
しかし、この「代行」には、思わぬ法的リスクが潜んでいます。
特に、「法律的な交渉・請求」の段階に踏み込んだ時、弁護士法第72条(以下「72条」)に抵触する可能性があるのです。
「弁護士法第72条」とは
弁護士法72条には、次のように定められています。
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。
簡単に言えば、弁護士・弁護士法人でない者が、法律事件に関して報酬を得て代理・交渉・和解その他法律的手続きを業として行ったり、その紹介(周旋)を業として行ったりしてはいけないという規定です。
そのため、仮に、Aさんが「未払い残業代を請求したい。自分の代わりに交渉してください」と業者に依頼し、その業者が会社側と条件交渉をし、一定額の支払いを引き出した、とすると、「業者が法律的な問題について本人の代理として交渉した」として、非弁行為にあたる可能性があることになります。
退職代行サービスはすべて違法?「伝言」か「交渉」かが重要
退職代行サービスと一言で言っても、中身は多様です。
例えば、単に「私○月○日付で退職します」という意思を会社に伝えるだけであれば、法律事件の交渉を行っていない限り、72条違反には該当しないとの見解があります。
今回の「退職代行サービス」はそのような建前ではじまったビジネスで、実際、会社に自分の退職すら言い出せない若者たちに、相当程度利用されてきました。
とはいえ、退職時には単に「退職」を伝えるだけでなく、未払残業代、有給休暇の買取、雇用保険上の取り扱いなど、会社と話し合うことも必要になります。
そのため、以下のような行為に踏み込んだ場合には、法的介入が必要な「法律事件」となり、非弁行為のリスクが高まります。
- 未払い残業代・退職金・有休消化を会社と交渉する
- パワ―ハラスメント慰謝料や損害賠償を請求する
- 依頼者から報酬を得て、他(たとえば労働組合や弁護士)に斡旋・紹介する
退職代行で「非弁行為」に当たってしまう実例
実際、東京弁護士会の「退職代行サービスと弁護士法違反」の記事では、次のような事例を挙げています。
事例1:退職及び未払い残業代請求を本人の代わりに会社に対して交渉
→ 非弁の可能性あり。
事例2:契約途中辞職+パワハラ慰謝料請求を、業者が有償で提携労働組合等経由で斡旋
→ 斡旋自体も非弁行為にあたる可能性あり。
つまり、退職代行を“使う”こと自体が違法というわけではなく、「どこまで業務内容が法律的な交渉・代理を含むか」がポイントとなります。
退職代行市場が拡大するなかで、法律的グレーゾーンだった業務内容が明確に「リスク」として認識されつつあります。
企業(雇用主)からのの視点
企業側は、退職代行という手法自体に対してただ拒否的になるのではなく、どのような代行サービスが利用されているか、交渉事項の有無・内容を把握しておくことが望ましいです。
退職者が「代行業者に全て任せている」と認識したがために、会社側とのやり取りがどこまで進んでいるか明確でないことが生じ、最終的には未払い賃金・有給・慰謝料請求などの対象となる可能性払拭できないことになります。
労働者側が交渉を含む業務を代行業者に委託している場合に、企業側としては本来これに応じる必要はありませんので、会社側も相応の対処を検討する必要があります。
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