COLUMUN
法律コラム

代表弁護士の水谷です。
世の中で注目されている時事問題について、法律に関わる部分で解説したいと思います。
9月になり、新学期もスタートしました。
沖縄尚学の勝利で夏の甲子園が終わったばかりですが、この甲子園では、名門の広陵高校が野球部内の部員による暴力行為を原因として、途中辞退する波乱がありました。
この件については、学校に広島県弁護士会の弁護士により構成される第三者委員会が設置されたとされています。
このニュースについて弁護士としての見解をお伝えしたいと思います。
暴力の具体的な内容とは。学校側の発表
広陵高校の発表によれば、以下のような報告がありました。
「加害生徒(B〜E)のそれぞれが個別に被害生徒(A)の部屋を訪れ、Bが胸を叩く、Cが頬を叩くという暴行をした。
また、Dが腹部を押す行為をしたほか、Eが廊下で被害生徒の胸ぐらをつかむ行為をした。
さらに保護者から、不適切な行為をした生徒としてF、Gの名前が挙がったため聴取したが、不適切な行為は確認できなかった。
後日、加害生徒4名が被害生徒に謝罪した。なお、被害生徒は3月末で転校した」
行為の詳細、いじめに至る発端や、同校の過去のケースなどについては、さまざまな報道がされているところではありますが、当事務所のブログにおいては触れないことにします。
未成年である生徒の責任はどうなるのか
職場内の言動による「パワハラ」等の認定とは異なり、今回は、「暴行」、つまり有形力の行使がされていますから、行為の違法性、つまり「不法行為性」は明らかだと思います(刑法第208に定められて成立する犯罪)。
この場合、責任を負うのは誰なのでしょうか。加害生徒は未成年だから、責任を負わないのでしょうか。
そんなことはありません。
民法上の「不法行為責任」つまり、不法行為により他者を傷つけた場合に負う損害賠償責任の主体は、「成人」であることを要求していません。
「責任能力」が備われば未成年でも不法行為による損害賠償責任を負うことになります(民法712条)。
責任能力があるかないか、年齢だけから判断されるわけではないながら、12~13歳を過ぎたころ、つまり中学生くらいになると、「責任能力あり」となります。
刑事上は、「14歳に満たない者の行為は、罰しない」(刑法41条)とされ、14歳以上20歳未満の者を少年法の対象としています。
今回の加害側の生徒たちは、少なくとも、民事上は本人たちで責任を負うわけです。
親の責任はどうなるのか
保護者の責任については、子が責任を負う以上、原則として直ちに親に責任が移るわけでありませんが(民法714条)、親側に監督義務の違反があるとされれば、親も連帯して=一緒に責任を負うことになります。
「(責任無能力者の監督義務者等の責任)第714条
前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。」
学校・部・監督の責任はどうなるのか
学校側、部の監督者側の責任はどうでしょう。
学校側、または部の監督者側は、「監督義務者」としてではなく、独自の責任として、加害生徒と連帯して(一緒に)、責任を負う余地があります。
いわゆる「いじめ防止法」は、学校側に対して、「事実確認の義務」や「指導、助言する義」「情報共有の義務」「必要に応じて加害者を懲戒する義務」などを設けています。
これらの義務がありながら、学校側がこれをしなかったと認められた場合、学校側は、その義務の不履行に基づいて、独自に不法行為責任を負うことがあります。
パワハラや暴力行為が起きてしまう背景
何も学生に限ったことではなく、過去には宝塚劇団においてもいじめ、パワハラの報道がありました。
能力を競う集団であって、おのずと上限関係ができる集団、そして、かつ閉鎖されて外部に対して閉ざされている環境においては、力の強い者がそうでない者に対して、圧力を加えることが黙認される構造があるように思われます。
今回は「暴力」という手段によるものでしたが、その圧力は、時に言葉によるものや、暴力の行使に至らない行為(無視や嫌がらせといったこと…)により加えられることがあります。
法律の規制のみならず、スポーツ、芸能といった個々の分野での意識改革そのものがはかられないと、抜本的な解決は望めないでしょう。
学校、職場など、日常的に相談のある「パワハラ事案」
今回の高校野球、決勝戦では、緊迫した試合でありながら、双方のチームの投手が笑顔でプレーをしていたことが報じられもしました。
スポーツである以上厳しさは免れえませんが、真の強さは、本来苦しい環境を楽しんで乗り越えられる気概にこそあるのだと思われます。
弊所のようないわゆる町の法律事務所では、学校のいじめ事案以上に、個々の職場での「パワー・ハラスメント」事案について、加害者側からも被害者側からもご相談を受けることがよくあります。
「パワハラ」該当性については別稿に譲りますが、未成年の甲子園球児の事案に限らず、我々も、個々の職場で、真の実力はそのような場からこそ発揮されることを認識すべきであろうかと思います。
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