COLUMUN
法律コラム

こんにちは。代表弁護士の水谷です。
犯罪収益に関する凍結口座に対する強制執行がらみの報道が、ここ1年ほど続きました。
読売新聞が中心的に報道しています。
このニュースについて弁護士としての見解をお伝えしたいと思います。
犯罪収益に関する凍結口座に対する強制執行
報道によれば、投資詐欺などに悪用された疑いがあるいわゆる「凍結口座」に対し、コンサルティング会社「スタッシュキャッシュ」が、虚偽の公正証書を作成して、相次いで強制執行をかけていました。
執行件数は公正証書に基づくものが8件、支払い督促に基づくものが17件、実に合計25件、総額3億円であったとのことです。
(読売新聞「凍結口座への強制執行、対応割れる金融機関…」)
今月9月8日にも、同社による虚偽の「公正証書」をもとにした強制執行について、代表者らに詐欺罪での追起訴があったとのことです。
(読売新聞「不当強制執行 3人追起訴 2450万円詐取」)
このニュース、昨年一世を風靡した「地面師」なみの、法律的な読みどころを含んでいます。
最終的には強制執行が無効となり、このようにして詐欺罪で起訴はされているわけですが、いったんは強制執行が効を奏しているわけですから、法を冒した側に、法律の間隙(すきま)を突く知恵があったものとみることもできるでしょう。
法律の間隙(すきま)その1 公正証書
ひとつは「公正証書」の在り方です。
強制執行のもとになった公正証書は、それ自体内容のない貸付についてのものであったといいます。
「公正証書」は、「強制執行受諾文言」といって「強制執行」を「受諾」する「文言」を備えれば、裁判の判決書と同じように、財産を差し押さえる効力を持たせることができる、強い効力をもつものです。
裁判の判決が、長い間時間をかけて“AさんとBさんの間で貸し借りがあるか”という中身について審理して、真偽を決めるものであるのに対し、「公正証書」は、公証役場で、AさんとBさんのお約束に基づいて、これを証書にするだけのものです。
「Aさん」と「Bさん」が本人であることは確認しますが、その二人の“貸し借り”というお約束にあったお金の移動が「真実にあったものか」ということは調べないのです。
今回の件は、この点をうまく利用したものといえます。
法律の間隙(すきま)その2 支払督促
次に、「支払督促」という制度です。
「支払督促」は、公正証書と違い、裁判所を利用するシステムですが、一般の方がイメージする裁判手続とは違います。
簡単にいえば、お金を貸した側が、簡易裁判所に申立書を提出して、裁判所が内容を審査して相手方にこれを送達する。
借りたとされる側から、2週間のうちに異議が出なければ、貸したとする側が「仮執行宣言」を申立て、強制執行(つまり差し押さえ)ができるようになってしまいます。
なんと、この手続き、相手方に送達されて異議さえ出なければよく、証拠もいらない、裁判所は書面が一応調っているか見るだけです。
裁判所が関与するのに、証拠もいらないなんて…と意外に思う方もあるでしょう。
つまり、書いてあること(お金が本当に貸し付けられたのか、など)が本当にあったかについては、裁判所が関与しないのです。
今回の件は、この点をうまく利用したものといえます。
法律の間隙(すきま)その3 取り立て
以上の2つは、強制執行の前段階の話でしたが、銀行口座の差し押さえの際の取り立て手続きにも、以外な間隙(すきま)があります。
銀行口座に差し押さえがかかると、差し押さえられた金額の範囲で、銀行はその金銭について払い戻しを中止します。
だからといって、銀行はただちに差し押さえた側にお金を振り込んでくれるわけではないのです。
銀行が法務局に「供託」をしない限り、銀行はお金を払い戻さないで保持したまま。
ここからお金をとってくるためには、差し押さえた側が「ここに振り込んでください」と改めて銀行にコンタクトをしなければなりません。これはちょっと意外なことです。
今回の件、犯罪収益として凍結された口座なのに、一部はここから不正な強制執行に基づいて払い戻しがあったようです。
報道からは仔細がわからないのですが、犯罪により凍結された口座に、さらに別の犯罪者が、虚偽の強制執行で裁判所の決定を得て、「ここに振り込んでください」と言って移動させたとしたら…
今回の件、ここにも法律の隙間があるのではないかと思えます。
よくある制度の隙間をうまく利用した犯罪
弁護士事務所では、実務上、将来の強制執行に備えたい場合、合意できている案件では裁判などはしないで「公正証書」にしますし、逆に争いもなく長期の裁判をするのが適切でない案件は「支払督促」の申立てもします。
当然、これらにもとづいて強制執行(預金差押え)の手続きもしますし、銀行あてに取り立ての連絡も行います。
今回の件、とても「よくある」制度の隙間をうまく利用した、犯罪収益に対するさらなる犯罪事件といえるでしょう。
地面師といわず、金融資産に対する次なる法律犯罪ドラマができるかも…と思うのは不謹慎に過ぎるでしょうが、法律的には初歩的な内容を組み合わせた高度な犯罪であったと考えます。
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