COLUMUN
法律コラム

法的な解決だけでは終われないドラマがある。
一見、書類だけでは無機質に思える裁判結果にも、その背景には様々な人生模様が隠されているのです。
当事務所の水谷が日々扱う事例を取材し、それを元にフィクションでショートストーリーを作成しました。
相続の時に家族関係が複雑だと、トラブルも一層複雑化する傾向にあります。
これまで潜んでいた家族間の微妙な感情の対立が、相続を機に顕在化することも…。
関係を持ちたくない、後妻家族と争続に…
長年、不安に思っていたことが、とうとう起きてしまった。
10年ぐらい会っていない、あの家族と再び会わなければならないのだ。
私には異母兄妹がいる。
私の母は中学の頃に病に倒れ、高校生の時に亡くなった。
父はすぐに後妻をとり、その人との間にも二人妹が生まれた。
私は高校を卒業し、亡き母の実家のある関西の大学に進み、以来、あの家から距離をおいて暮らしていた。
父とは時折、連絡は取り合っていたし、都内に立ち寄った際は父と外で食事をしたりすることもあった。
しかし、あの家に私が立ち寄ることはなかった。
私とひとまわりほどしか変わらない後妻と、まだ幼い妹たち。
私が幼い頃育った奥沢にある古い家も、全く、別の空間になってしまっていた。
居場所なんて、もうとっくになかったのだ。
そして、父が亡くなった。
相続問題がひと筋縄でいかないのは、ずっとわかっていたことだ。
事業を営んでいた父は多くの収益物件を含む不動産を所有していて、
その事業こそ、私の母と父が二人で若い頃に起業し、財を成し得たものだったのだ。
母は私を育てながら身を粉にして働いた故、体を壊して亡くなってしまったのだ。
私の身内が誰もいなくなってしまったのも悲しかったが、
それよりも母と父の努力の結晶が、全然関係のない別の家族のものになるのも悔しすぎる。
母の命と引き換えに得たものを、関係のない後妻と妹たちに継がせるわけにはいかない。
それはずっと心に思っていたことだった。
生前の父に、真剣に打ち明けたこともあった。
「相続の時にもめることだけはしたくないから、きちんと遺言を用意しておいてください」と。
父は一言、「すみれ、それはわかっているよ」と。
しかし、結局、なされないままだった。
先妻の子は、私一人だ。
特別お金に困っているわけではないので、何もいらないと言って縁を切ってもよいのだが、
母のことを思うと相続しなければ、とも思えてくる…。
だからといってあの家族とのやりとりは、できるだけ避けたかった。
私は、用賀の女性弁護士の事務所を訪れ、心の内を打ち明けた。
「そうでしたか。大変でしたね。すみれさんはそのご家族とはあまりもめたくはないのですね?」
もめたくもないし、どちらかと言うと関係を終わりにしたい。
私の血縁はもう誰もいなくなってしまった。
だからと言って、後妻家族を自分の家族とも思えないし、お互い”しがらみ”に縛られたくもない。
「お金に関しては均等に分配できますが、問題は不動産です。
複数人で相続するなら共有では?と皆さん考えがちなのですが、あまりおすすめできません。
売って分けられれば、その点単純ですが」
みんなで相続…となると関係性は続くことになる。
それは御免だ。
しかもその後、それぞれに子どもが生まれたらまたそこで細分化され、関係がややこしくなってしまうのは目に見えている。
かと言って、父と母が作り上げた事業を、簡単に潰して売却してしまうのも如何なものか…。
(続く)
【もっとよくわかる!法律用語解説】
法定相続人とは
民法では相続人になれる人が決まっており、順序も決められている。
配偶者は常に相続人となり、配偶者以外の相続人として、第一順位として子、第二順位としてその父母などの直系尊属、第三順位が兄弟姉妹となる。
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